重要 例題19 遺伝子発現の調節
ある生物由来の細胞Pでは、遺伝子Xからタンパク質 x が合成される。 遺伝子Xの
種類の調節タンパク質 z1~23がかかわっている。 z1 は Y1, z2はY2, z3 Y3
発現は,遺伝子Xの近傍にある転写調節領域 Y1~Y3 によって調節されており,3
のみにそれぞれ結合する。転写調節領域に結合した調節タンパク質 z1~z3のそれ
ぞれは,転写の開始あるいは抑制のどちらかのみの決まった作用をもつ。細胞Pと同
じ生物由来だが,細胞Pとは別の3種類の細胞Q,R,Sについて調べてみると,細
胞RとSでもタンパク質xは合成されていたが,細胞Qでは合成されていなかった。
そこで,細胞の種類の違いによって遺伝子Xの発現が異なるしくみを調べるために実
験を行った。
遺伝子Xの代わりに蛍光タンパク遺伝子を組み込み,蛍光タンパク質の合成の有無
を調べた。さらに Y1~Y3 のいずれかを欠損させたものについても同様に行った。
その結果下図のようになった。 また, Y1~Y3 のすべてが欠損している場合には,
蛍光タンパク質の合成は起こらなかった。
1-1-1-
Y2
Y2
Y2
Y 3
遺伝子X
Y3 蛍光タンパク遺伝子
O
X XO
細胞
XO
ROO
SOO
×
OX
Y 3
Y2
Y3
図 遺伝子X,蛍光タンパク遺伝子,転写調節領域の配置, およびタンパク質の合成の有無
図の1段目は,遺伝子Xとその転写調節領域 Y1~Y3のDNA上の配置と, 細胞PSでの
タンパク質xの合成の有無を示す。 2 ~ 6段目は, 実験に使用した組換えDNA の一部と, こ
れらをそれぞれ細胞P~Sに導入したときの, 蛍光タンパク質の合成の有無を示す。
○は 「合成あり」 × は 「合成なし」を示す。
z1 ~ z3は, それぞれどの細胞でつくられ,それぞれ Y1~Y3に結合することで
遺伝子Xの転写を促進するか抑制するか答えよ。
(北里大)
解答へのプロセス
(1) Y1 についてまとめます。
P Q
2段目 Y1 + Y2 + Y3 ○
6段目
Y2+ Y3
1は細胞Pでつくられ, z1がY1に結合すると遺伝子Xの転写を促進す
るとわかります。
× ×
P
×
×
×
RS
×
3段目 Y1
「また」 (何もなし)
Q と R では Y1 があってもなくても転写が行われないので, QとRでは
Y1は関与していないとわかります。
⇒PとSではY1 がないと転写が行われず, Y1 があると転写が行われてい
ます。 すなわち, PとSではY1の働きで転写が促進されるとわかります。
⇒z1 は細胞Sでもつくられ,転写を促進することがわかります。
(2) Y2の作用を調べます。
X
×
Q RS
5段目
Y3
6段目 Y2 + Y3
⇒RとSでは,Y2がないと転写されませんがY2があると転写されます。
細胞RとSではz2がつくられ, Y2 に結合して遺伝子Xの転写を促進す
ると判断できます。
S
×
P Q R S
4段目 Y2
「また,」(何もなし)
x x
⇒ Y2 があってもなくても転写されない細胞P では Y2 は関与していないと
判断できます。
P Q RS
⇒細胞Qでも z2 はつくられ、転写を促進しているとわかります。
(3) Y3の作用を調べます。
4段目 2
6段目 Y2 + Y3
⇒PではY3は関与しません。
⇒QでY3がないと転写されるのに,Y3があると転写されません。すなわ
ち,Y3がなくなると転写が行われるようになったのです。 これは「鍵な
しびっくり箱の法則」 ですね。 Y3 は転写を抑制していたのだと判断でき
ます。
では Y3 が関与していないと判断できます。
Y3 の作用が抑制とわかったので, Y3があっても転写が行われるRやS
z3 は細胞Qでのみつくられ, Y3 に結合することで遺伝子Xの転写を抑
制するとわかります。
5段目 Y3
「また,」(何もなし)
5段目においてQで転写されないのはY3が抑制しているからです。 「ま
P Q
S
× × × ×
「た」においてQで転写されないのは, Qにおいて転写を促進するY2が
ないからです。
合
結果的に、細胞Qではz2と3がつくられ, z2は促進, z3は抑制に作
用します。 でも問題文の7行目にあるように, 「タンパク質 x は …細胞Q
では合成されていなかった」ので,z3による抑制作用のほうが強いと判
断することができます。
つくられる細胞
z1: PとS
z2 :
z3:
×
QとRとS
Qのみ
遺伝子Xの転写
促進する
促進する
抑制する
第②編 思考力を養う重要例題ベスト 20 9