最初からなるべく丁寧に解説しました。参考になれば幸いです
1 「実質貨幣供給量」とは何か
・名目の貨幣供給量を M、一般物価水準を P と置きます。
・このとき M を P で割った M/P が「実質貨幣供給量(real money balances)」です。
・M/P は「家計や企業が持っているおカネで、いま市場で何個の財を買えるか」という購買力を表します。
2 実質貨幣供給量が増える二つのルート
・中央銀行がベースマネーを増やして M そのものが大きくなる場合。
・物価水準 P が下がる場合(デフレ)。
どちらでも M/P は大きくなります。
3 なぜ資産の「実質的価値」が上がるのか
・家計が持つ現預金や額面固定の国債は「名目額が決まっている資産」です。
・物価が下がる、あるいは貨幣が増えると、同じ1万円でも買えるモノが増えます。
・したがって「名目額は同じだが、実質(=モノに換算した価値)が上昇した」という状態になるわけです。
4 この現象を経済学ではどう呼ぶか
・古典派・ケインズ論争に登場した「ピグー効果(Real Balance Effect)」がまさにこれです。
・ピグーは「実質貨幣残高の増加が人々の実質富を押し上げ、消費が自動的に促される」と主張しました。
5 資産価値が上がると何が起きるか
・家計は富が増えたと感じ、消費性向が高まります(たとえばライフサイクル仮説でいう平滑化消費)。
・財市場での総需要が増え、IS曲線が右へシフト。
・結果として国民所得が上昇し、失業が減る方向に働きます。
・拡張的財政政策に近い効果が貨幣サイドだけで発生する――これが教科書で強調されるポイントです。
6 注意点
・現実には資産の多くは株式や不動産のように名目額が固定されないものもあるため、ピグー効果がどれほど強いかは国や時期で違います。
・ただしハイパーデフレや急激なマネー供給増の局面では、実質貨幣残高の変化が家計の行動に与える影響が無視できなくなることがあります。
まとめると、実質貨幣供給量の増加は「名目額が固定された貨幣・債券の購買力を高める」→「家計の実質的な資産価値が上がる」→「消費が増える」という経路でマクロ経済に波及します。これが「実質貨幣供給量の増加が資産の実質価値を押し上げる」という説明の核心です。