そもそも憲法とは、国家の行う立法及び活動から国民の権利を保護するために制定されたものです。そうであれば典型的には国家の立法や活動によって国民の権利が侵害された場合その立法や活動が違憲であるとして主張することになります。
しかしながら、国家ではないが時として企業などの国家でないもの(私人)が、個人の憲法上保護された権利を侵害する可能性があります。そこで、そのような企業の活動を憲法に反するとして無効にしたり、また憲法上の権利が侵害されたとして損害賠償ができるのかという問題が生じるのです。
学説ではそのような私人が他の私人の憲法上の権利を侵害した場合は直接憲法の規定に反するという主張が許されるのだという直接適用説があります。一方、憲法はあくまで国家の立法や活動を縛るものであり、私人が他の私人の憲法上保護される権利を侵害したとしても違憲であるという主張をすることができないという無適用説という考え方もあります。
しかしながら三菱樹脂事件という判例はいずれの見解もとらずに質問者様があげた間接適用説という考え方を採用しました。すなわち法律は当たり前ですが、憲法に反しないように場合によっては憲法の権利を保護するために制定されるものです。そして法律はある程度抽象的に記述されているので法律の解釈をする際に憲法の価値を斟酌して間接的に憲法上の権利を保護しようとするという考え方が間接適用説になります。
例えば民法90条では、「公の秩序又は善良の風俗に反する」契約は無効になります。間接適用説に立つ場合、仮に企業の雇用契約の一部に男女差別的な内容があり、憲法14条の平等権を害する場合には、憲法14条で保障される平等権を侵害するため「公の秩序又は善良な風俗に反」して契約が無効であるとするでしょう。一方直接適用説の立場からすれば、民法90条を持ち出さず憲法14条を直接根拠にして契約が無効であるとするのです。
無適用説の場合、憲法的な価値を斟酌することなく、民法90条に契約が反するとして契約の無効を主張することになるでしょう。
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