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発展 遺伝情報が変化すると、何が起こるのだろうか?
DNAの複製に間違いが起きるなど,何らかの理由でDNAの塩基配列が変化
することがある。 タンパク質は, DNAの塩基配列に基づいて合成されるため,
DNAの塩基配列がわずかに変化しただけでも, 合成されるタンパク質の本来
の機能が大きく変化することがある。 このような例として, よく知られたもの
かまじょうせっけっきゅうひんけつしょう
に鎌状赤血球貧血症がある。
健常者の赤血球は円盤状であるが, 鎌状赤
血球貧血症の患者の赤血球は,低酸素状態で
鎌状 (三日月状)に変形し、 もろくて壊れやす
くなる。そのため, 鎌状赤血球貧血症の患者
は赤血球数が減少しやすく, 貧血症状を起
こしやすい。
患者のヘモグロビンの遺伝子を調べてみる
と DNAの塩基配列のうち, 1か所が A/T
から T/A に置きかわっていることが明らかになった。 つまり, DNA のただ1
か所の塩基配列が変化した結果, 図ⅡIのように, mRNAのコドンの1か所が
GAG から GUG に変化し, そのため翻訳されるアミノ酸の1か所がグルタミ
ン酸からバリンに変わり, そして,この変化によりヘモグロビンの立体的な構
造が変化し, その患者の形質に「貧血」という重大な変化が現れたのである。
DNA
TCC T
EGGAG
AGGA CTC CTC
mRNA
TI TI
UCCUGAGGAGA
翻訳
アミノ酸
形質
転写
グルタ
ミン酸
DNAの塩基
配列が変化
mRNAの塩基
配列が変化
アミノ酸の
配列が変化
20
3μm
ⓘ図 I 鎌状赤血球
(電子顕微鏡写真に着色)
生物
TCCTGTGGAGA
AGGA CACCTCT
転写
ID
UCCUGUGGAGA
翻訳
バリン
鎌状
円盤状 タンパク質の性質が変化する
ことで,赤血球の性質が変化
① 図Ⅱ 鎌状赤血球貧血症の塩基配列の変化と形質の変化 (写真は電子顕微鏡写真に着色)
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