【三】次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
(市司の長官で時光という吹きがいた。)
( 声を合わせて
中ごろ、武時光といふ吹きありけり。 茂光といふ華葉師と囲碁を打ちて、同じ声
頭楽を歌っていたが、)
(宮中から急用があるとのことで、帝が時光をお呼び
に裏頭楽を唱歌にしけるが、面白く覚えける程に、内裏よりとみのことにて、時光を召し
になった。)
けり。
(このこと)
(ただ共に体を揺らして歌って
御使、至りて、この曲をぁいふに、いかにも、耳にも聞き入れず、ただ謝ともにゅゆるぎあ
いて、)
(帝に申し上げる)
そうもん
びて、ともかくもの申さざりければ、御使、帰り参りて、この由をありのままに奏聞す。い
者どもかな。さほどに楽に愛でて、
(王位の位などは情けないものであるなあ。)
何ごとも忘るばかり思ふらんこそいとやんごとなけれ。王位は口をしきものなりけり。行
かなる御戒めかあらんと思ふ程に、「いとあはれな
(尊いことだ。)
きても、え聞かぬこと」とて、涙ぐみ給へりければ、思ひのほかにありけり。
(手段)
これらを思へば、この世のこと思ひ捨てんことも、数奇は、殊に便りとなりぬべし。
(鴨長明『発心集』)
※語注 *篳篥師・・・篳篥を吹く人。篳篥も雅楽(日本の伝統的な音楽)に用いる管楽器。
*裏頭楽・・・雅楽の曲名。
*楽・・・雅楽。
*数奇・風流の道。
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