じしゅうい ものがたり
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説話
宇治拾遺物語
動詞(4) 上一段・下一段・変格活用
今は昔、薬師寺の別当僧都といふ人ありけり。別当はしけれども、ことに寺の物もつかはで、極楽
語注
に生まれむことをなむ願ひける。年老い、病して、死ぬるきざみになりて、念仏して消え入らむとす。
無下にかぎりと見ゆるほどに、よろしうなりて、弟子を呼びて言ふやう、「見るやうに、念仏は他
念なく申して死ぬれば、極楽の迎へいますらむと待たるるに、極楽の迎へは見えずして、火の車を
*別当…僧職の一
の長。
*きざみ・・・時。
*火の車… 生前
た者を地獄に
う火の燃え
寄す。『こはなんぞ。“かくは思はず。何の罪によりて、地獄の迎へは来たるぞ』と言ひつれば、車
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よろこ
ひと
*
につきたる鬼どもの言ふやう、「この寺の物を一年、五斗借りて、いまだ返さねば、その罪によりて、
この迎へは得たるなり」と言ひつれば、われ言ひつるは、『さばかりの罪にては、地獄に落つべきやう
*ずきやう
なし。その物を返してむ』と言へば、火の車を寄せて待つなり。されば、とくとく一石誦経にせよ」
と言ひければ、弟子ども、手まどひをして、言ふままに誦経にしつ。その鐘の声のする折、火の車か
へりぬ。さて、とばかりありて、「“火の車はかへりて、極楽の迎へ、今なむおはする」と、手をすり 1
て悦びつつ、終はりにけり。
*五斗…容積
では、米の
トル。後出の
=百升=千合
*誦経・・・ここで
ためのお布施