あまくさ
*肥後と天草の島との間の海中に小さきあり。 いかなる事にや、この
ねずみ
島にはむかしより 鼠おびたたしく住めるとぞ。もとより小さき島なれば人
ゆえ
も住まず、ただ、鼠のみなりといふ。 この故に、この海を通船にて
あたり
しゃみせん
は、三味線をひく事を船頭かたくいましめてゆるさず。もしこの辺にて
3このいましめ を用ひず三味線をひけば、かならず波風大いにおこりて、
ねこ
船あやふき事あり。三味線は猫の皮にてはりたる物なれば、鼠の4
ころ
あたひ
ゑなりとぞ。近き頃の価やすき三味線は、多くはいぬのこの皮にてはれる
とぞ。この島の鼠は昔よりの事のみしれるにや。
たちばななんけい
(橘南谿「西遊記」)
ひご
むゆ