「芥川」の続きの文章
にようご
これは、二条の后の、いとこの女御の御もとに、つかうま
つるやうにてゐたまへりけるを、かたちのいとめでたくおは
ほりかは
しければ、盗みて負ひて出でたりけるを、御せうと、堀河の
くにつね
らふ
大臣、太郎国経の大納言、まだ下﨟にて、内裏へ参りたまふに、
いみじう泣く人あるを聞きつけて、とどめて取り返したまう
てけり。それを、かく鬼とはいふなりけり。まだいと若うて、
后のただにおはしけるときとや。
(現代語訳)
このお話は、二条の后が、いとこにあたる女御のお側にお仕
え申し上げるようなかたちでおいでになっていたところ、容
貌がとても美しくいらっしゃったので、盗んで背負って逃げ
出したのだが、それを、兄上の、堀川の大臣と、国経の大納言
がまだ身分の低い頃で、宮中に参上される途中で、ひどく泣く
人があるのを聞きつけて、引き止めて取り返されたのであっ
た。それをこのように鬼というのであった。まだたいそう若く
て、臣下の身分でいらっしゃった時のことであるよ。