次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
ケンガーは、再び飛び立とうとしてを広げた。だが、あっという間に盛り上がった波に飲みこまれてし
まった。やっと海面に顔を出したものの、日の光が消えている。何度か強く頭をふった後、自分は大海原の
のろいをかけられてしまったのだと、ケンガーは概った。急に、目が見えなくなってしまったのだ。
銀色のつばさのカモメ、ケンガーは少しでも光が腿ってくるようにと、それから何度も水の中に頭をつっ
こんだ。彼女の両目は、海面に広がった原油におおわれてしまっていたのである。羽も、べとべとした黒い
ものがついて、動かない。飛べないのなら、泳いで黒い波のただなかから脱出しようと、ケンガーは思い
きり脚を動かした。
筋肉もせいいっぱい動いて、ケンガーはなんとか、海に広がった原油のしみの外へ出ることができた。き
れいな海水が心地いい。彼女は何度も水に頭をつっこんで、まばたきをくり返した。油の膜も、少しずつ目
から取れていく。ケンガーは、空を見た。だが、はてしない天空と海の間には、ただ雲が(A )浮かん
でいるだけだった。〈赤砂灯台〉の仲間たちは、行ってしまったのだ。はるか、遠くに。
それは、カモメの世界の拠だった。ケンガーも以前、黒い死の波に襲われたカモメたちを、目撃したこと
がある。そのときケンガーは、たとえ助けることができないとわかっていても、下りていって、力になりた
かった。しかし結局、そのままその場から、飛び去るしかなかった。仲間の死の場に居合わせることを禁じ
た、カモメの淀にしたがって。つばさが張りつき、動けなくなってしまったあのカモメたちは、大きな魚た
ちの格好のえじきになってしまったことだろう。あるいは、羽の間を流れ続ける原油に毛穴という毛穴をふ
さがれて、ゆっくりと窒息死していったのかもしれない。
その同じ運命が、今、ケンガーを待ちかまえている。ああ、( B )大きな魚に飲みこまれて、ひと思
いに消えてしまいたい。ケンガーは、そう思った。
黒いしみ。黒い毒。運命の一瞬を待ちながら、人間をのろった。
「いいえ、でも、人間みんなというわけではない。。かたよった考え方はだめ!」ケンガーは、か細い声をふ
りしぼって、叫んだ
彼女は上空から、何度も見てきたのだ。沿岸が霧につつまれる日を利用して、大きなタンカーが沖にでて
きては、官がのタンクの中を撮除するのを。何千リットルものどろりとした臭いものを、海に総てるのな。
そうしてそれが、避に運ばれていくのな。
その一方で、小さなボートがやってきて、タンカーにタンクの掃除をさせないようにする光景も、目にし
ていた。ただ、残念ながら、虹の色をしたその小さなボートは、海が汚されそうになるときに、必ず現れる
というわけではない。
(ルイス·セプルベタ「カモメに飛ぶことを教えた猫」による)