次の文章は「小夜」の一節で、今は宮の妃となっている大納言の君の出産前後の様子を描いたものである。かつて、
である大納言の北の方からげられていた姫君は、北の方の発案で異母妹の 女の女房として参内していた時に、当時の
から思いを寄せられたことがあった。 梅壺女御は君に嫉妬し、北の方は悪計をめぐらして君を帝から遠ざけたが、その後すべ
てが明るみに出たため、北の方は周囲から非難されることとなった。 これを読んで、後の問いに答えよ。
御産も近くなりぬれば、さのみさておはしますべきならねば、大納言のもとに、玉・鏡のごとく磨き立て、出てくれば、春
官は、 つれづれ思わびけり。
そのほどに、御息所さる御気色なりければ、母上よりはじめ、大納言殿、うち騒ぎあひたる。 折りの都・
集まり、心を尽くしあひたり。春宮、いかならんと思しやるに、あらましごととも御胸騒ぎておぼえ給ひつつ、御
よりしげし。
正、参り
(注3)
ひ、雨の脚
さて、いたくもなやみ給はで、夜中過ぐるほどに生まれ出で給ひてうち泣き給ひつるに、人々、うれしなどいふばかりなし。 大
(注1)
納言殿、まづ 「なにぞ」とのたまへば、「若宮」と申すに、うち笑み給へり。御祈りの僧どもにも抜け物ありて心地よげなり。
春宮もかくと聞き給ふに、たひらかならんだにうれしかるべきを、若宮と聞き給ふに、うれしなどいふばかりなくおはしける。
やがて御佩刀参らせ給へり。 御兄人の弁少将、取り入るる気色も、心地よげなり。まして御産などめでたし。 三日、まづ院よ
うぶやしなり
り心を尽くし給へれば、などかおろかならん。 五日・七日などは、我も我もと、残る人なし。
は、かかることども聞き給へるにつけても、父君、また世の人々も、いかに思ふらんと身のうさのみ置き所なし。
つらしとも人をばいかがうらむべき身のうさのみぞうきと知らるる
御乳母などは、かかるめでたきことども見聞くにつけても、くちをしく思ふ。 かくめでたきことに含ひののしらんと思ひしを
ひきかへて数ならず思ひ落としし人はかくいみじき御さいはひにて、わが君はあるにもあらで過ぐし給ふ世のならひも心うく、
なにしに見しままのことも言ひ出だしけんと、おのがどちは、「我が身
」「人の巻」などさへ言ひ腹立つぞをかしきや。
(注1)
北の方も、 かく世に
を聞き給ふにも、梅壺の、などかかるめづらしきことをだに、し出で給はざりけん、 そ
御息所ここでは春宮の妃の敬称。
きじょう
2 母上
母親代わりとして君の世話をしている。
宰相の君と呼ばれる人物。
3
3 あらしごとども御胸騒ぎておぼえ給ひつつ
春宮が御息所の出産について気をもんでいる様子を表現している。
「なにぞ」とのたまへば、「若宮」と申すに
は姫君が出産した子の性別を尋ねる言葉。「若宮」は、ここでは
「なにぞ」
出産した子が男児であることを答えた言葉。
5 御佩刀
誕生した若宮に贈られるものである。
守り刀。
6御産養
五・七・九日目の夜に、新生児の縁者によって催される祝宴
「産養」とは、誕生の日から三・
7 梅北の方が悪計をめぐらして姫君を帝から遠ざけたことが明るみに出たため、帝が退位した後、宮中から退出している。
御乳母 梅壺女御の乳母。
6 なにしに見しままのことも言ひ出だしけん 梅壺女御に仕える女房たちは、君の部屋に入る帝の姿を見咎め、それを
壺女御や北の方に報告することがあった。 北の方が悪計をめぐらして君を帝から遠ざけたのは、この報告がきっかけとなっ
(注1)
(9)
356
SCA
(31)
んかすんどろ
れさへ嘆かれ給ふ。
80
せうと
(注10)
(注2)
454