ちぎ
しまうじん
ごと
すごろく
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。 の左側は口語訳)(十二点)
せんにちゅうで
きよみずでら
ある若い侍が、退屈しのぎに清水寺の千日詣を二度行った。ある日他の侍と双六を打って負
けたとき、渡すものがないので、二千日お参りしたことによるご利益を渡すと言い出した。
この勝ちたる侍、「いとよきことなり。渡さば得ん」と言ひて、「いな、かくては請け取らじ。三
いや、このままでは受け取るまい
日して、この由を申して、おのれ渡す由の文書きて渡さばこそ請け取らめ」と言ひければ、「よき
あなたに渡す、という内容の証文を書いて渡してくれるなら受け取ろう
ことなり」と契りて、その日より精進して、三日といひける日、「さは、いざ清水へ」と言ひければ、
約束して
それでは
この負け侍、このしれ者にあひたると、をかしく思ひて、悦びて連れて参りにけり。言ふままに
引き連れて清水寺にお参りした
おろか
文書きて、御前にて、師の僧呼びて、事の由申させて、「二千度参りつること、それがしに双六に
仏の前で、清水寺の僧を呼んで事の次第を話してもらい
打ち入れつ」と書きて取らせければ、請け取りつつ悦びて、伏し拝みまかり出でにけり。そののち、
いくほどなくして、この負け侍、思ひかけぬことにて捕へられて、人屋にゐにけり。取りたる侍は、
牢屋
つかな
思ひかけぬたよりある妻まうけて、いとよく徳つきて、司などなりて、頼もしくてぞありける。
たいそう裕福になり、高い役職について
「目に見えぬものなれど、誠の心をいたして請け取りければ、仏、あはれとおぼしめしたりける
真心
なんめり」とぞ、人は言ひける。
お思いになったのだろう
うじしゅういものがたり
(『宇治拾遺物語』による。)
(注) ※双六………碁に似た室内の遊び。賭け事として行われた。
※精進・
一定期間行いをつつしみ、身を清めること。