第1章◆「論」と「例」①
の
口
目標時間4分
私は、一九九五年に刊行した「宗教クライシス』以来、現代日本人の空しさの核心は、自分がどこまでも交換可能で
あるという意識からくる、「かけがえのなさの喪失」だということを訴え続けてきた。「宗教クライシス」では、その前
年に起きた「オウム真理教事件」を受け、一見豊かで何の不足もなく見える若者たちがあのような事件を引き起こして
しまう背景にあるのは、若者たちに広がる「空しさ」であり、そうした「かけがえのなさの喪失」は、若者だけに限ら
ず日本社会全体に広がっており、右肩上がりの経済成長の利得によってその「空しさ」の構造は覆い隠されてきたが、
いまや日本全体がそこに直面させられていると、問題を提起した。それにもかかわらず、一九九五年の時点ではそういっ
た指摘はまだまだ
してあんなに元気がないんでしょうねえ」「いまの若者にはどうしてこんなに夢がないのかねえ」と、年長世代は若者
x」として受け取られることが多かった。「こんなに豊かな社会なのに、いまの若者はどう
を奇異の目で見ていたのだ
しかし、それからの十年は、そうした「交換可能」の空しさ、かけがえのなさの喪失が若者だけに限らず、年長世代
にも広がっていることが実感させられる時代だった。一生勤められると思っていた会社からある日突然リストラされる。
お前のような人間はいくらでもいるから、別にお前でなくてもいいのだ」と言われるのである。そしてそのときに私
たちは、それまで会社にとっても仲間にとっても「かけがえのない存在」であると信じていた自分の存在が、どこまで
も交換可能なひとつの部品でしかなかったという事実に直面するのである。
(上田紀行「生きる意味」)
問 空欄Xに入る語句として最適なものを一つ選びなさい
現代世代論
現代経済論
現代社会論
現代青春論
現代若者論
現代批判論