あるひと
或人、
*
こ
きよみず
清水まりけるに、老いたる凪の行きつれたりけるが、道すが
(道の途中
(道連れになった人が)
あまごぜ
で)
るのですか
ら「くさめくさめ」と言ひもて行きければ、「尼御前、何事をかくはのたま
(言いながら行くので
(尼君)
(そんなにおっしゃ
たびたび
「ふぞ」と問ひけれども、答へもせず、 なほ言ひやまざりけるを、度々間はれて、
(言い続けていたところ)
うち腹立ちて、「やや、鼻ひたる時、かくまじなはねば死ぬるなりと申せば、
(腹を立てて)
くしゃみをしている時) (こうしておまじないをしなければ死んでしまうと申すから)
ひえのやま
ち
たま
*養ひ君の、 *比叡山に*児にておはしますが、ただ今もや鼻ひ給はんと思へ 5
(いらっしゃる方が) (もしや今すぐにくしゃみをなさるかと思う
Hmmm
がた
ば、かく申すぞかし」と言ひけり。有り難き志なりけんかし。
ので(こう申しているのですぞ)
めったにない殊勝な心構えであったことだ)
つれづれぐさ
(「徒然草」より)
きよみずでら
(注)*清水…清水寺のこと。
くさめくさめ・・・くしゃみが出たときのまじないの文句。
うば
*養い君・・・自分が乳母としてお育てした方。
えんりゃくじ
*比叡山延暦寺のこと。
*児…勉学や行儀見習いのために寺に預けられている少年。
e
に