さて、 (粟田殿が) 土御門から東の方角へ
と (花山院天皇を) お連れ出し申し上げな
さったところる、安倍晴明の家の前をお通り
になさると、 (安倍晴明が) 手を激しく、
ぱちばぱちとたたいて、
「天皇がご退位なさると思われる天の
異変がありますが、すでになってしま
ったと思われます。 (宮廷へと) 参内
して奏上しよう。 牛車の支度を早くし
なさい。」
という声をお聞きになられたであるろう (花
山院天皇のお気持ちは) 、そう (ご自身で
出家を決められた) はいっても心引かれる
こととお思いになられたでしょう。