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世界はうつくしいと
(数字は行番号を表す。)
うつくしいものの話をしよう。
2いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいということばを、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。
す
5 そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
7風の匂いはうつくしいと。渓谷の
Lo 石を伝わってゆく流れはうつくしいと。
午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。一
の
遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。
= きらめく川辺の光はうつくしいと。
おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。
B 行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。
花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。一
雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。
6 太い枝を空いっぱいにひろげる
二
n 晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。
Ve
冬がくるまえの、曇り日の、
あか
南天の、小さな朱い実はうつくしいと。
8 コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。
2 過ぎてゆく季節はうつくしいと。
2 さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。
28 1体、ニュースとよばれる日々の破片が、
4 わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。
2あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。
28うつくしいものをうつくしいと言おう。
4幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。
2 シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く
9何ひとつ永遠なんてなく、いつか
らり
すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。
だ
(長田弘「世界はうつくしいと」より
n