も、
きぬた
嘆きながらはかなく過ぎて、秋にもなりぬ。長き思ひの夜もすがら、やむともなき砧の音、ねや近ききりぎりすの声の乱れ
2
一かたならぬ寝覚めのもよほしなれば、壁に背けるともし火の影ばかりを友として、 明くるを待つもしづ心なく、尽きせぬ
涙のしづくは、窓打つ雨よりもなり。
3
いとせめてわび果つる慰みに、さそふ水だにあらばと、朝夕の言草になりぬるを、そのころのちの親とかの、頼むべきことわ
とほつあふみ
いざな
ものまうで
りも浅からぬ人しも、遠江とかや、聞くもはるけき道を分けて、都の物詣せんとて上りきたるに、何となく細やかなる物語
などするついでに、「かくてつくづくとおはせんよりは、田舎のすまひも見つつ慰み給へかし。かしこも物騒がしくもあらず、
心すまさん人は見ぬべきさまなる」など、なほざりなく誘へど、さすがひたみちにふり離れなん都の名残も、いづくをしのぶ心
にか、心細く思ひわづらはるれど、あらぬすまひに身をかへたると思ひなしてとだに、憂きを忘るるたよりもやと、あやなく思
ひ立ちぬ。
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(阿仏『うたたね』より)