16.6 カルボン酸とカルボン酸誘導体の反応性の比較
求核付加-脱離反応には,四面体中間体の生成とその四面体中間体の分解の二
段階があることを学んだ、アシル基に結合している塩基が弱ければ弱いほど(表
16.1), 両段階とも進行しやすくなる。
脱離基の相対的塩基性
最も弱い!
塩基
CI < OR=OH < NH,
最も強い
塩基
それゆえ,カルボン酸誘導体は次の相対的反応性をもつ。
カルボン酸誘導体の相対的反応性
cf
O
0
0
最も反応性
|が高い
R
CI
R
OR'
*OH > R
R
-NH2
最も反応性
が低い
塩化アシル
エステル
カルボン酸
アミド
アシル基に弱塩基を結合させると,どうして求核付加-脱離反応の一段階目が容
易になるのだろうか.鍵となる要因は,Y上の孤立電子対がどのくらいカルボニ
ル酸素上に非局在化しているかである。
弱塩基は自分の電子をほかに与えにくい性質をもつ、したがって、 Yの塩基性
が弱いほどY上に正電荷をもつ共鳴寄与体の寄与が小さくなる。さらに, Y =
CIのときには,塩素上の大きな3p 軌道と炭素上のより小さな 2p軌道との重な
りが小さいため,塩素の孤立電子対の非局在化が最小となる.Y上に正電荷をも
つ共鳴寄与体の寄与が小さくなればなるほど,カルボニル炭素はより求電子的に
なる。このようにして弱塩基はカルボニル炭素をより求電子的にし,求核剤に対
する反応性を高めているのである.
相対的反応性
R
R
y+
ステル~カル
カルボン酸あるいはカルボン酸誘導体の共鳴寄与体
問題12◆
a. 次の化合物のうち,カルボニル基の伸縮振動の最も高振動数(高波数)なものは
どれか:塩化アセチル, 酢酸メチル, アセトアミド
b. カルボニル基の伸縮振動の最も低振動数(低波数)のものはどれか。