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その傾向がなかったとは誰が言えよう。諸君は、この山根魚を嚇笑してはいけな
い。すでに彼が飽きるほど暗黒の浴槽につかりすぎて、もはや我慢がならないで
いるのを、了解してやらなければならない。いかなる嵐痛病者も、自分の幽閉さ
れている部屋から解放してもらいたいと絶えず願っているではないか。最も人間
嫌いな囚人でさえも、これと同じことを欲しているではないか。
ああ神様、どうして私だけがこんなにやくざな身の上でなければならないの
諸君は、発狂した山線魚を見たことはないであろうが、この山椋魚にいくらか
塩痛病者 神』
いのある人。昔
ニ>
O4Pマ。
みずすまし」
アメンボのこと
です?」
岩屋の外では、水面に大小二匹のみずすましが遊んでいた。彼らは小なるもの一
かえる
が大なるものの背中に乗っかり、彼らは唐突な蛙の出現に驚かされて、直線をで
たらめに折り曲げた形に逃げまわった。蛙は水底から水面に向かって勢いよく律
をつくって突進したが、その三角形の鼻先を空中に現すと、水底に向かって再び一
山根魚はこれらの活発な動作と光景とを感動の瞳で眺めていたが、やがて彼は一
自分を感動させるものから、むしろ目を避けたほうがいいということに気がつい
突進したのである。。
律 リズム
く繰り返さ
た。彼は目を閉じてみた。悲しかった。彼は彼自身のことを例えばブリキの切り
①ブリキ b
ダ語)薄い
めっきした
くずであると思ったのである。
誰しも自分自身をあまり愚かな言葉でたとえてみることは好まないであろう。
ただ不幸にその心をかきむしられるもののみが、自分自身はブリキの切りくずだ
などと考えてみる。たしかに彼らは深くふところ手をして物思いにふけったり、
手ににじんだ汗をチョッキの胴で拭ったりして、彼らほどおのおの好みのままの
格好をしがちなものはないのである。
山根魚は閉じたまぶたを開こうとしなかった。なんとなれば、彼にはまぶたを
開いたり閉じたりする自由と、その可能とが与えられていただけであったからな
のだ
その結果、彼のまぶたの中では、いかに合点のゆかないことが生じたではな
かったか! 目を閉じるという単なる形式が巨大な暗やみを決定してみせたので
ある。その暗やみは際限もなく広がった深淵であった。誰しもこの深淵の深さや
「かかる常
何を指すか
ふところ手C
合点のゆかな
際限もなく
しんえん
広さを言いあてることはできないであろう。
ーどうか諸君に再びお願いがある。山根魚がかかる常識に没頭することを軽
飽きる園飽和
解放 題開放