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現代文 高校生

朝のヨット 少年は人間だった時にどんなことに対して臆病でしたか?の答えを教えてください🙇‍♀️

朝のヨット 山川方夫 あけぼの の色がほのかに東の空を染めて、間もなくその日の最初の太 陽の光が、はるかな海面を錫箔のように輝かせた。 洋上はまだ薄暗 く、空と海の境もはっきりしなかったが、 とにかく、海には朝が来 ていた。 が一羽、そのヨットの上空で、 ゆるやかに翼を上下していた。 鴎は、まるでどこまでも離れない決心をしたもののように、そのヨ ットと方向と速度を一つにして、 朝空を動くかなりの風の中を翔び つづけた。 「行ってくるよ」 少年はスナイプ型のヨットに乗り、 その舫綱を解きながら、 少女 に声をかけた。 「ねえ、つれて行って。 私も」 「だめだったら」 少年は、怒ったような声音だった。 「海は、二人でたのしみに出かける場所じゃない。 人間が、 一人き りでぶつかりに行く相手なんだ」 「私よりも、 海のほうが好きなの?」 少年はいらだち、 神経質に眉をよせた。 「君といっしょにいると、僕は、ときどきもう一人の自分が、 ひど く遠いところに置き去りにされているような気分になる。 僕は、そ のもう一人の自分を取りもどすために海へ行くんだ。 .海は、 人 間を本当の一人きりにしてくれる場所だからね」 「どうして一人きりになりたがるの?」 「女にはわからないさ」 少年はきびしい顔で答え、ふいに白い歯を光らせて笑いかけた。 そして、いった。 「君を好きだよ」 スナイプは、すでに岸を離れていた。 白い帆を斜めに、群青の午 後の海をすべって行くヨットを見て、少女は目に涙がうかんでき た。だが、少女は笑顔のまま手を振りつづけた。 急速にひろがる二 人の距離、 明るいその海面の広さを、 そのまま、 遠ざかる帆の速さ で彼女の胸を裂き、 ひろがる一つの口のように感じながら。 少年はそして海に消えた。 沿岸や離島の各所からの返電はすべて 『到着ナシ』であった。 急変した天候、 突風と小さな竜巻とが、ど うやら、その理由を語っていた。

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