に、いみじうこそ泣きたまへ。いかがつかうまつらんずる。童もまかりぬらん方も
のり
このわたりにこそ隠れてさぶらふらめ。松持て参らで暗うなりはべりぬ。御車つ
うなる人にか、まことに心ならぬことならば、いかばかりわびしからん、暗き道
切りつる法の師惑ひ来て、本意のままにせんとすらんといとほしけれど、 送る
て置きたらましなど思すに、 袈裟、さすが被きて走りつらん足もと思し出づる
ても、かくて見捨てんはいとほしう、道のほども手や触れつらんと思すに、心づ
にくく思さるれど、なほいかなる人の身にかゆかしければ、御車引き返し、か
はどなれど、引き被きて泣き伏したる人ありけり。
(『狭衣物語』による)
する辺り。
円頭=髪をそり落とした頭。この御車=狭衣が乗っている牛
外に垂らした絹布。納言以上、または女房の車に用いた。僧綱=官位の高い
区御室にある真言宗御室派の大本山。 阿闍梨=高僧の敬称。天台宗・真言宗