Contemporary writings
SMA
高二国語
2枚目の青の問4
答えは3枚目で、青の四角で囲った「多大な税金を投入している」の内容を加えるか迷いました
「この陥穽」の前が課税の話に近いので必要かなと思いました。なぜ模範解答は課税の内容に触れていないのですか?
ふたつの誤り
私たちは科学の知を客観的な真理を示すものだと考えている。それは仮説→検証
→法則化という近代科学の方法に対する信頼によるものだ。しかし、本当にそこ
に誤りはないのか。 今、改めて科学とは何かが問われているのだ。
私たち研究者は、研究を進めるにあたって仮説というものを立てます。 仮説と
は、仕組みのあり方です。このような仕組みが存在すると考えれば、さまざ
まな現象をうまく説明できる。 そのこのような想定を仮説と呼びます。
たとえば、昔の人は、精子の内部に小人が足を折りたたんだ体育座りで潜ん
ふくおかしんいち
・福岡伸一
50
ひもと
んでいるという仮説を立てました。 そう考えれば、受精と発生という現象をうま
説明できる。 その小人が子宮でだんだん大きくなってヒトになるのです。 実際、
顕微鏡で精子を観察するとそのような小人が見えたという科学者まで現れました。
仮説は時として、人間の観察眼を曇らせてしまいます。 曇らせるばかりでなく
ある方向に導いてしまいます。それをバイアスといいます。 科学史を絡くと、今
から思えば実にこっけいな仮説に、当時、一流の一流とされた科学者たちがとら
われて多くの迷走が生まれました。 精子の仮説もそのひとつです。 しかし当時は
まじめ
みんなが大真面目で議論しあっていたのです。 そして実のところ、人間の思考は
それほど進歩しているわけではないのです。
確かに精子の中には小人が体育座りしているわけではありませんでした。 そこ
2
に座っていたのは父方から来たDNAでした。 それが母の卵子のDNAと合体す
ると発生が開始されます。 しかし、わかったのはそこまでです。一体どうしてそ
こからヒトが形作られてくるのか、 その仕組みのあり方は今のところほとんどす
べて仮説の域を出ません。 そして、私たちは今、精子の小人仮説を笑ってはいま
すが、分子生物学の最先端にいるような気がしても、未来の人びとからみれば害
にこっけいな仮説に拘泥しているに違いないのです。
うことです。
実に悩ましいのは実験科学における「第一種の誤り」と「第二種の誤り」とい
精子の中の小人 (ホムンクルス)
6
私たちはまず仮説を立て
す。そしてその仮説を検証す
るために実験を行います。 仮
説が正しければ結果はAとな
り、誤っていればBとなるよ
うな計画のもと実験を立案し
ます。研究者はもちろん自分
の仮説にある程度自信をもっていますから、結果がAとなることを内心期待して
います。
きょしんたんかい
しかし、多くの場合、いや九五パーセント以上は、期待したような結果にはな
りません。つまり結果はBとなります。この結果を虚心坦懐に解釈すると、それ
は仮説が間違っていたから実験結果がそうならないのだ、となります。 これを
「第一種の誤り」と呼びます。つまり、そもそも仮説が誤っていたから実験結果
もAとはなりません。
ところがです。多くの場合、いや九九パーセント以上の科学者は、ああ、そう
か、仮説が間違っていたのだ、とすぐに素直には認めません。むしろ彼もしくは
実験の方法が適切でないから期
彼女はこう考えます。 私の仮説は正しいのだが、
待される結果とならないのだ、と。
つまり、仮説は正しいが実験のやり方が間違っていると判断されるのが「第二
種の誤り」です。実験のやり方が適切でない理由はいくらでも見つけられます。
試薬の濃度が適切でなかったとか、測定器の感度が不良だからとか、はたまた実
験動物が風邪をひいていたせいだとか。
そこで、研究者は、正しい実験を行おうと考えて、いろいろ条件を変えて実験
を繰り返します。研究と呼ばれるものが非常なる長時間を要するのはそのためな
のです。そして実験科学最大の問題点も実はここにあります。「第一種の誤り」
と「第二種の誤り」は、内実は正反対なのに、どちらも結果はBと出ます。
つま
り研究者にとって、期待どおりの結果にならないという現実からは、仮説が間違
っているのか、実験が適切でないのか見分けがつかない、ということなのです。
かくして、不幸なことに、多くの場合、いや九九・九パーセント以上のケース
では、本当は誤っている仮説に固執して、益のない実験が繰り返されている、と
いうのが科学研究の実態なのです。そして、本当に問題なのは、そこに多大な税
金が投入されている、ということです。これは実際には利用者のいない場所に橋
を架けたり、道を造ったりすることに似ています。そして、私もこの陥穽の例外
ではありません。私もたくさんの仮説をもとに研究を進めています。その多くは
期待どおりの結果にはなっていません。つまり、この文章には重い自戒の意味が
込められているのです。
かんせ
10
問4 この陥穽」とはどのよ
しなものか。
第三章 AI と人間
74
4
本当は誤っている仮説に固執して、益のない実験を繰り返すこ
Answers
No answer yet
Apa kebingunganmu sudah terpecahkan?
Pengguna yang melihat pertanyaan ini
juga melihat pertanyaan-pertanyaan ini 😉