ノートテキスト
ページ1:
「小説ぅ??!!」 教室の机で私、 宮本絵里は机に突っ伏して唸っ ていた。 中1の夏休み、 国語の宿題は小説を書くこと、 らしい。 「これから中学生で初めての夏休み、 楽しい夏 休みにしてくださいね~」 先生がいつものニコ ニコ笑顔でそう話したのがついさっきのこと。 突然叫んだ私をみんなが白い目で見てきた。顔 が赤くなる。ううっ恥ずかしい... 紗奈ちゃん先生、 小説のおかげで全く楽しく過 ごせそうにないです...... 毎日漫画を読み漁って、 小説の「し」の字に すら触れたことがない私に小説を書けだなん て!!読むならまだしも、書かなきゃいけない んだよ?! 宿題は早めに終わらせるタイプの私は、しぶし ぶ家に帰ってシャーペンを握る。
ページ2:
手元を見れば、 黄金のラインが入った漆黒のマ ント。 慌てて立ち上がった拍子に足元のマントの裾が もつれるが、急いで広間の隅にある姿見に駆け 寄る。 「うそでしょ!?」 鏡に映ったのは、ゴテゴテと派手な金ピカの 王冠を被った私、 宮本絵里の顔... いや、 少し違 う。妙に大人びて、 きつくなった目元。 そし て、頭からは鋭く尖った漆黒の角が、 見事に生 え伸びている! みるからに「魔王」だ。 「まさか...... まさかの小説の中ぁぁ!?」 シャーペンで適当に書きなぐった、あの、 ク オリティゼロの異世界ファンタジーの中に来て しまったらしい。 しかも、 よりにもよって魔 王として! その時、轟音とともに目の前の扉が吹き飛 んだ。
ページ3:
『レイルの魔法が、 エリが座っていた玉座に命 中し、エリは光に包まれ消滅した。』 漫画を読み漁ったかいがあった! 言葉がすらす ら出てくるっ... これなら、 勇者も目的を果たせて、私も消滅 =現世に戻れるはず! 乱暴に書き終えた瞬間、 ノートが輝きを放った。 そして、再び、 白い光が私を包む。 次に目を開いた時、 私はさっきまでいた、 自 分の部屋の机の前に座っていた。 手の中には、 シャーペンが握られている。 「戻って... きた...?」 窓の外を見れば、 まだ太陽は高く、 時間は、あ の時と、全く変わっていないように思えた。 手のひらに、かすかにインクのような汚れがつ いていたけれど。 終
ページ4:
「魔王エリよ!貴様の悪行、 今日で終わりだ!」 声の主は、白銀の鎧をまとった白髪の美青年。 手には巨大な大剣を携え、 その瞳は強い決意に 満ちている。 体がビクッと跳ね、 思わず玉座の背後に隠れよ うとしたが、重い甲冑が邪魔をする。 勇者、 レイルだ。 まさしく、 私が今ハマってい る漫画の主人公そっくり。 やっぱりイケメン... ってそうじゃない!! レイルは私に大剣を振りかざし、 私が適当に考 えた、ありきたりすぎる決め台詞を叫ぶ。 「ちょ、ちょっと待って! 違うの、 私は...っ!」 私の言葉を聞き入れず、 レイルは剣を振り下ろ し、よく通る声で 「やあっ!」と叫んだ。 同時 に、青色の見るからに強そうな光が、一直線に 私目掛けて飛んでくる! 「ひゃっ!」 私は悲鳴を上げ、 玉座の後ろに尻餅をついて辛 うじて避けた。 (どうしようどうしようっっ)
ページ5:
「魔王は必ず、俺の手で討つ!!」 レイルがさらに一歩踏み込もうとした瞬間、部 屋の隅にいた数体のゴブリンめいた手下が、 勇者めがけて飛びかかり、 レイルの動きを食 い止める。 「オオオオッ!」 「邪魔をするな、 雑魚ども!」 ゴブリンたちがレイルと格闘している隙に、 私 は必死に周りを見渡す。 「あれ、 は!」 玉座の脇の小さなテーブルに、一冊のノートが 置かれていた。 国語の宿題で、 私がさっきまで 書き込んでいた、あのノートだ。 その傍らに は、古めかしいインク壺と、 鳥の羽根がそっと 添えられている。 震える手でノートを掴み、 ページを開く。 そ こには、私の拙い文字で書かれた 「小説」 が広 がっている。 (書き換えれば...! これで現実に帰れるかも!) 私は勇者と手下が戦っている隙に、急いでノー トのページを開く。 鳥の羽根をインク壺に突っ 込んで、 文字を書き殴る。
ページ6:
Thank you for watching
ページ7:
「んー……まぁ悪を討伐しといたらいいか」 設定を考えるのが面倒で、 流行りの異世界ファ ンタジーを適当になぞることにする。 勇者はレ イル (今ハマってる 「悪討伐の道中で」の主人 公!)、魔王は... エリでいいか。 どうせ先生しか 見ないわけだし。 勇者が魔王を討伐するまでの道中を、 ご都合主 義で端折りまくり、 クオリティゼロの物語を一 通り書き終えた。 ふう、 これで終わった。 そう、思った直後。 強い光に目を細め、 次に目を開いた時、私は困 惑に包まれていた。 目の前には広大で豪華な広間。 高い天井、 血の ように赤い絨毯、 そして私が座っているのは、 およそ人間に座れるとは思えないほど禍々しい 装飾が施された玉座。 自分の息遣いだけが響き渡り、妙にひんやりと した空気が肌を刺す。 「へ...?」
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