Senior High
芸術・作品

【小説】アメアガリ

5

459

1

ヒカル

ヒカル

Senior HighSemua

小説を書いてみたいと思っていたので、応募してみました。共感してもらえたりしたら嬉しいです。

ノートテキスト

ページ1:

アメアガリー
雨は嫌いだ。
雨の日の重苦しい空気が嫌いだ。
その日は朝から雨が降っていた。
私の憂鬱な気持ちが表れているようで、嫌な天気だ。
重い気持ちのまま学校に向かう。
進路相談が行われる教室の机はいつもと並び方が違って
いる。
なじみのあるいつもの教室の風景に母がいるだけでどこ
か知らない場所みたいだった。
母と担任の先生と私。
重苦しい空気のまま進路相談が始まった。
「大学はどこに行きたいとか、どの学部がいいとかなん
となくでいいから決めてるか?」
「まだ…わかりません...。 」
「そうか。じゃあどんな仕事をしたい?」
「それも...まだ...」

ページ2:

嫌いなはずの雨の中に飛び出したい衝動に駆られた。
その衝動に身を委ねて傘も持たずに雨の中を走った。
何も考えず、何もかもを雨で流してしまいたかった。
気付けば涙が溢れていた。
今日だけは雨が降っていてよかったと思った。
走り疲れて、泣き疲れた頃、道の真ん中で雨に濡れなが
ら立ち尽くしていると、見慣れた青い小さな車が私の少
し前に止まった。
車が止まってしばらくして、母が傘をさして私に駆け寄
った。
怒っているわけでも、呆れているわけでもなさそうだっ
た。
「お母さん、知ってるのよ。」
「......えっ...?」
何を言われているのか見当がつかなかった。
「本当はやりたいこと、 あるんでしょう?」
[......]
「自分の娘のことだからわかるんだよ。 でも、あなたが
何も言わなければ私は何もできないよ。」

ページ3:

先生はわたしを問い詰めるように立て続けに質問をす
る。
その質問から逃げるように窓の外を見ると雨が強くなっ
ていた。
母はどの質問にも答えられない私に呆れたようにため息
を漏らした。
息ができなくなったみたいに苦しかった。
この教室が息苦しく感じるのは雨が降っている重い空気
のせいだけではないだろう。
何の進展もない進路相談が終わって教室を出たとき、よ
うやく息ができたような気がした。
母と二人になっても何を言っていいかわからず、黙った
まま母の少し後ろを歩いた。
沈黙に耐えきれず、私は口を開いた。
「......私... 歩いて帰るから先行くね...。」
ぼそぼそといつもの何倍も小さい声で呟いて、そのまま
振り返らずに早歩きで立ち去った。
母に聞こえていたかどうかは分からない。
だが、そんなことはどうでもよかった。
ただその場から逃げ出したかっただけだ。

ページ4:

私に傘を傾けているせいで母の左肩はびっしょり濡れて
いる。
「私は......!」
大きく深呼吸をした。
「私は!絵を描きたいっ!」
ただ口に出すのが怖かっただけかもしれない。
ずっと母に言いたかった。
わかってほしかったし、 応援してほしかったんだと思っ
た。
「やっぱり……」
母は呆れたような、嬉しそうな、よく分からない表情を
している。
進路相談の途中、母がため息をついたように聞こえたの
はそうではなかった。
ため息などではなく、何かを言いかけて言葉を飲み込ん
だだけだった。
さっきまで傘をたたきつけていた雨がいつの間にか止ん
でいた。
少しだけ空が明るくなった気がする。

ページ5:

思えば、高校三年生になってから私はずっと焦ってい
た。
焦って、 焦って、目標も目的もなくただひたすら勉強を
した。
ただそれだけの毎日に疲れていたのかもしれない。
今日からようやく、私にとっての高校三年生がはじま
る。
やっぱり雨は嫌いだ。
ただひとつ、変わったことがあるとするならば、雨上が
りの空は少しだけ好きになれた。

Comment

マヨラー
マヨラー

なんかいいなぁ....