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【選択問題 1】 次の文章を読んで問に答えなさい。
長野·丸子実業「いじめ自殺事件」の場合は、高校1年生の男子生徒の自殺が発端である。遺族である母
親は、彼が所属していたバレー部の上級生からいじめを受けていたが、それを学校が隠蔽しようとしたと訴
えた。さらに校長が、希死念慮(死にたいと考えること)のある生徒を無理やり登校させようとしたことが
自殺の原因であるとして、校長を殺人罪で告訴したのを手始めに、マスコミや世論を動員して猛烈に学校を
攻撃し始めたのである。
「いじめ」という言葉に社会は過剰に反応する。〈長野·丸子実業「いじめ自殺事件」〉が起きたのは 2005
年である。当時も今も、学校現場でのいじめを苦にした青少年の痛ましい自殺は後を絶たず、深刻な社会問
題になっている。マスコミが「いじめ自殺」を大きく取り上げるのは、いじめの卑劣さへの憤りが根底にあ
るにしても、世間の耳目を引くに十分なネタであったためだ。だからこそ、報道はヒートアップし、いじめ
自殺に関する多くの記事が出た。しかし、それらはいずれも、いじめ被害者の訴えを無視して適切な指導を
行わず、結果的に被害者を自殺に追い込んだ教師、いじめをあくまで隠蔽しようとする、姑息で事なかれ主
義の学校や教育委員会を加害者として糾弾した。要するに、子どもや保護者は圧倒的に善であり弱者であり、
それに対して学校は、非力な子どもや保護者を抑圧する権力者として描かれた。極めて単純な二項対立であ
る。
これはインターネットの世界もまったく同じだった。ネットの住人たちは、既成のマスコミをマスゴミな
どと表現し、その報道姿勢を頭から疑ってかかっている。ところがいじめに関しては、ネットの住人はなぜ
かマスコミの報道を疑わない。それどころか、その尻馬に乗って、加害者やその親、教師の実名、住所、顔
写真までネットに晒している。時にはまったく別人の情報がアップされてしまい、重大な人権侵害が起こる。
結局のところ、母親には極度の虚言癖があり、男子生徒の自殺の原因は母親の男子生徒に対する執勘な虐
待、言動にあることが裁判での証言から明らかになった。裁判の結果、学校生活が自殺の原因であると考え
ることはできないとされ、母親の主張は退けられた上、校長の名誉を傷つけたとして、損害賠償が命じられ
た。
Aメディアが基本的に、弱者の側に立とうとする姿勢はもちろん正しいと思う。だが間題は、権力 vs 弱
者などという単純な図式に固執して、あいかわらずの※ステレオタイプな弱者像に捉われていることだ。そ
もそも、権カ=悪と決めつけることは、物事を判断する目をゆがめ、ひいては事実を見誤ることにつながる
と思う。メディアの役割とは、虚心坦懐に対象を見つっめ、一歩一歩地道に着実に真実に迫ろうと努めること、
これに尽きると思う。とんでもない気罪を生まないためにも。
※ステレオタイプ…多くの人に浸透している先入観、思い込み、固定観念、レッテル、偏見、差別などで物事
を深く考えず単純化して見てしまうこと。
参考資料 現代ビジネス講談社20190207の記事より一部掲載
問1.文章中の下線Aについて、この事件において、メディアがステレオタイプな弱者像にとらわれたと書いて
ありますが、どういう意味か、分かりやすく説明しなさい。また、このような事件において、メディアの
報道姿勢として行ってはいけないこと、行うべきことは何かを明らかにし、メディアの在り方について、
自分の考えを解答用紙に記入しなさい。(解答枠の範囲で記入すること)